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記帳代行の生産性をAIで上げる方法|1社あたりの作業時間を減らす仕組みと注意点
DX・業務改善

「件数はまだ受けられる。でも、人が増やせない」——記帳代行を受託している会計事務所・記帳代行会社の最近もっとも多い悩みだと思います。
記帳代行は、件数が増えれば売上も増えますが、同じだけ人の手も要ります。単価は簡単には上げられず、月初から中旬にかけて作業が集中し、慣れた担当者が抜けると一気に回らなくなる。だからこそ「1社あたりの作業時間」をどう削るかが、そのまま事務所の利益率と、受けられる件数の上限を決めます。
ここで効いてくるのが、AI(ChatGPT・Claudeなどの生成AI)による記帳代行の効率化です。会計事務所のAI活用というと難しく聞こえますが、やることは「仕訳の自動化ツールを入れる」ことではなく、人の手が止まっている工程を見つけて、そこだけAIに肩代わりさせることです。ただし最初にはっきりお伝えします。AIに任せられるのは「読み取り・整理・下ごしらえ」までで、仕訳の最終判断は人が行うべき領域です。税務上の判断(税務相談・税務書類の作成)は税理士の独占業務であり、AIも、無資格の受託者も、そこに踏み込むことはできません。
この記事では、その線引きを守ったうえで、①記帳代行の時間がどこに消えているか②AIで減らせる工程と減らせない工程③1社あたりの時間を減らす4つの打ち手④弊社の実測値⑤導入前の注意点——を、受託側の目線で整理します。
記帳代行の時間は「入力」より「その前後」に消えている

効率化の話になると、まず「入力を速くする」に意識が向きます。しかし実際に記帳代行の工程を分解してみると、純粋なキー入力が占める割合は思ったほど大きくありません。
| 工程 | 主な作業 | 体感の重さ |
|---|---|---|
| ① 証憑の回収 | 顧問先に領収書・請求書・通帳を依頼し、届くまで待つ・催促する | 重い |
| ② 仕分け・整理 | 紙とデータの混在を並べ替え、重複・抜けを確認する | 重い |
| ③ データ化 | 日付・金額・取引先を読み取って入力する | 中 |
| ④ 科目・税区分の判定 | 勘定科目、消費税の区分を決める | 中 |
| ⑤ 連携明細との突合 | 銀行・カードの自動取込明細と、手元の証憑を突き合わせる | 重い |
| ⑥ 残高照合 | 通帳残高・カード請求額と帳簿を合わせる | 中 |
| ⑦ 顧問先への確認 | 使途不明の支出を質問し、返答を待つ | 重い |
| ⑧ 保存・添付 | 証憑をファイル化し、仕訳と紐づけて保存する | 中 |
「重い」が付いた工程を見ると、回収・整理・突合・確認・保存という“入力の前後”に時間が吸われていることが分かります。1社あたりの作業時間を本気で減らすなら、③の入力速度だけを上げても頭打ちです。
もうひとつ厄介なのが、④の科目判定が担当者の頭の中にしかないことです。「この取引先は毎回この科目」「この支出はこう扱う」という事務所ごとの判断基準が明文化されていないため、担当が変わるたびに品質が揺れ、引き継ぎに時間がかかります。この属人化こそが、件数を増やせない本当の理由になっているケースは少なくありません。
AIで減らせる工程と、人が必ず担う工程

では、どこまでをAIに任せてよいのか。ここを曖昧にしたまま導入すると、後から取り返しのつかない事故になります。工程ごとに線を引いておきます。
| 工程 | AIの担当範囲 | 最終責任 |
|---|---|---|
| 証憑の読み取り(日付・金額・取引先) | ◎ ほぼ任せられる | 人が抜け漏れを確認 |
| ファイル名の統一・整理 | ◎ ほぼ任せられる | — |
| 勘定科目の候補出し | ◎ 過去実績から候補を提示 | 人が確定 |
| 連携明細と証憑の突合 | ◎ 候補の紐づけまで | 人が承認 |
| 会計ソフトへの登録 | ○ 承認後に自動実行 | 人が承認 |
| 証憑ファイルの添付 | ◎ ほぼ任せられる | — |
| 消費税の区分・インボイスの扱い | △ 候補どまり | 人が確定 |
| 交際費か会議費かなど税務上の判断 | × 任せない | 税理士 |
| 税務相談・申告書の作成 | × 任せない | 税理士(独占業務) |
ポイントは、AIの出力を「答え」ではなく「候補」として扱う設計にすることです。読み取った内容と科目候補を一覧で出し、人が目で見て承認してから会計ソフトへ登録する。この一手間を残すだけで、「間違ったまま自動で積み上がる」という経理で最も怖い事故を防げます。
税理士法の線引きは必ず押さえる
記帳という記録作業自体は、税理士でなくても受託できます。一方で、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の独占業務であり、無資格者が報酬を得て業として行うことはできません。AIを使っても、この線は1ミリも動きません。
実務上は、「これは経費で落ちますか」「この支出はどの科目が正しいですか」といった顧問先からの質問が、判断を伴う税務相談に近づいた時点で、税理士に引き継ぐ運用を決めておくことが大切です。士業の現場でのAIの使いどころは「宮崎の士業(税理士・社労士)がClaudeで業務効率化する方法」でも整理しています。
1社あたりの作業時間を減らす4つの打ち手

線引きが決まったら、実際に手を入れる順番です。効果が大きい順に4つ挙げます。
打ち手1:証憑の入口を1つにまとめる(回収の催促をなくす)
もっとも時間を食っているのは、多くの場合「催促」です。顧問先ごとに、紙で郵送・LINEで写真・メール添付……と入口がバラバラだと、揃ったかどうかの管理だけで消耗します。
- 顧問先ごとに共有フォルダを1つ用意し、そこに入れてもらう形に統一する
- 銀行・クレジットカードは会計ソフトの自動連携に寄せて、そもそも証憑を集めなくていい状態を作る
- 電子取引(メール添付の請求書など)は、紙に印刷せずデータのまま格納してもらう
入口が1つになると、AIに「このフォルダを処理して」と指示するだけで次の工程が動き出します。自動化は、入口の統一とセットで初めて効きます。
打ち手2:読み取りとファイル名を自動化する
領収書・請求書の画像やPDFをAIに読ませ、日付・取引先・金額を抽出し、「日付_取引先_内容_金額」のような統一ルールでリネームします。
地味な工程に見えますが、ここが揃うと後工程がまとめて楽になります。並べれば抜けが目で見えるようになり、突合も探し物も速くなり、保存後に「あの領収書どこだっけ」がなくなります。
打ち手3:事務所の判断基準を「ルール」として蓄積する
4つの中で、中長期にいちばん効くのがこれです。
「この取引先は毎回この科目」「この内容の支出はこう扱う」といった、これまで担当者の頭の中にあった判断基準を、AIが参照できる形(テキストのルールファイルなど)で書き出して貯めていきます。過去の仕訳実績から出発すれば、ゼロから書く必要はありません。
これをやると、AIの科目候補の的中率が月を追うごとに上がり、人が判断する件数が減っていきます。市販の仕訳の自動化ツールと決定的に違うのはこの点で、汎用のルールではなく、その会計事務所が積み上げてきた判断基準で動くようになります。さらに副次的な効果として、属人化していた判断基準が事務所の資産になり、引き継ぎと教育が一気に楽になります。一度教えた手順をAIに覚えさせる考え方は「Claudeに定型業務を「覚えさせる」方法」で具体的に紹介しています。
打ち手4:作業を「全件入力」から「例外だけ判断」に変える
読み取り・候補出し・突合まで済んだ状態を一覧で出し、人はそこを上から確認して、迷うものだけ自分で決める。これが最終形です。
作業の性質が「全件を打ち込む」から「例外だけ判断する」に変わるため、同じ時間で見られる件数が増えます。ここまで来ると、担当者の仕事は入力オペレーターではなくチェックと顧問先対応に寄っていきます。
実際にどれくらい減るのか(弊社の実測値)
弊社(宮崎市のITコンサルティング会社)は、自社の経理と顧問先の月次処理で、この仕組みを実際に動かしています。自社分の実測は次のとおりです。
| 項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 処理枚数 | 月20〜30枚 | 同じ |
| 作業時間 | 月60〜90分 | 月10〜20分 |
| 人がやること | 全件手入力+証憑添付 | 撮影して指示、例外判断と最終確認 |
| 証憑の添付 | 1件ずつ手作業 | 自動で添付 |
※2026年7月時点の自社実測値です。枚数・証憑の状態によって変わります。
詳しい手順と費用は「【実録】領収書の山をAIに読ませてマネーフォワード クラウドに自動記帳」に公開しています。また、ここで使っている仕組みは無償のプラグインとして公開しており、導入手順は「マネーフォワード クラウドの記帳をAIに任せる方法(基本編)」、証憑を仕訳へ自動添付する設定は「領収書を仕訳に自動添付する設定(応用編)」で解説しています。
期待しすぎない方がいい部分
正直にお伝えすると、次のようなケースでは削減幅は小さくなります。
- 手書きの領収書や、感熱紙が薄くなったレシートが多い(読み取り精度が落ち、目視確認が増える)
- 顧問先が証憑をまとめて期限直前に出してくる(回収の問題はAIでは解決しない)
- 初月(過去実績からのルールがまだ薄く、人の判断件数が多い)
逆に言えば、枚数がそこそこあり、取引先の顔ぶれが毎月似ている顧問先ほど効果が出ます。効果の見立て方は「AI導入の費用対効果(ROI)の考え方」も参考にしてください。
経理のAI化をお考えの方へ:領収書の読み取りから仕訳の登録・証憑の添付までを自動化するプラグインを、無償で公開しています(会員登録もメールアドレスの入力も不要です)。無償プラグインを見る →
導入前に必ず押さえる5つの注意点
1. 自動登録にしない(承認を人が行う設計にする)
読み取りから登録まで一気通貫で自動化したくなりますが、登録前の承認だけは人に残してください。経理は、誤りが自動で積み上がるのが最も怖い領域です。弊社が自社のプラグインを承認制にしているのも同じ理由です。
2. 顧問先データの守秘義務とAIの設定
記帳代行で扱うのは、他社の機微な情報です。AIサービスを使う前に、入力したデータが学習に使われない設定・契約形態かを必ず確認してください。あわせて、誰がどのツールに何を入れてよいかを社内ルールにしておきます。ひな形は「中小企業向けAI利用規程・社内ガイドライン雛形」に用意しています。担当者が個人アカウントで勝手にAIを使う状態(シャドーAI)のリスクは「社員が勝手にAIを使う「シャドーAI」のリスクと社内ルールの作り方」で解説しています。
3. 電子帳簿保存法への対応を崩さない
メールやWebで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、原則としてデータのまま保存することが求められます。自動化の過程で「印刷して紙で保管」に戻してしまわないよう、仕訳への証憑添付まで含めて仕組みに組み込んでおくのが安全です。保存要件や経過的な取扱いは改正が入る領域なので、詳細は国税庁の公表資料で最新の内容をご確認ください。
4. 二重計上を防ぐ
カード連携の明細と、手元の領収書。両方から仕訳を作ってしまうと、同じ支出が二重に計上されます。連携明細を基準にして、領収書は証憑として添付する側に回すなど、どちらを正とするかを顧問先ごとに決めておきます。
5. 削れた時間を、そのまま値下げに使わない
これは経営の話です。作業時間が半分になったからといって報酬を半分にすると、効率化の投資が回収できません。浮いた時間は、受託件数を増やす/月次の締めを早める/数字の説明や経営のアドバイスに充てるといった、単価を維持・向上させる方向に振り向けるのが健全です。効率化は値下げの原資ではなく、提供価値を増やす原資として使ってください。
何から始めるか|3ステップのスモールスタート
いきなり全顧問先に展開すると、必ずどこかで事故が起きます。次の順番をおすすめします。
- 1社でパイロット:枚数が中くらいで、取引の顔ぶれが安定している顧問先を1社選び、1〜2か月試す。従来のやり方と並走させ、結果を突き合わせる
- ルールを書き出す:試す中で人が判断した内容を、そのつどルールとして書き足す。ここが事務所の資産になる
- 横展開する:似た業種・似た取引構造の顧問先から順に広げる。担当者を1人「推進役」として決めておく
会計事務所のAI活用は、全社一斉導入よりも、この「1社で確かめてから広げる」進め方の方が確実に根づきます。
推進役をどう選ぶかは「AI推進担当者の選び方と育て方完全ガイド」が参考になります。なお、自社の経理(事業会社側)を効率化したい方は、受託側を前提とした本記事より「クラウド会計×AIで経理業務を半分にする完全ガイド」の方が近い内容です。
よくある質問(FAQ)
Q1. AIに仕訳を作らせるのは、税理士法に触れませんか?
A. 記帳という記録作業自体は税理士の独占業務ではないため、受託して行うこと自体は問題ありません。触れるのは、税務代理・税務書類の作成・税務相談を無資格で報酬を得て行う場合です。AIは判断の主体になれませんので、税務判断が必要な場面では税理士が確認する運用を必ず組み込んでください。個別の可否については税理士にご相談ください。
Q2. 手書きの領収書でも読み取れますか?
A. 読み取れることが多いですが、印字されたレシートに比べると精度は落ちます。手書きが多い顧問先では、金額と日付だけは目視で確認する運用にしておくと安全です。
Q3. 会計ソフトはマネーフォワード クラウドでないとだめですか?
A. 弊社が公開している仕組みはマネーフォワード クラウド向けですが、考え方(入口の統一・読み取りの自動化・ルールの蓄積・例外だけ判断)はソフトを問いません。API連携やCSV取込に対応したソフトであれば、同じ設計で組めます。
Q4. 導入にどれくらいの費用と期間がかかりますか?
A. 弊社の場合、すでに業務で使っているAIをそのまま経理にも使っているため、経理のための追加契約はしていません。期間は、1社でのパイロットに1〜2か月みておくと現実的です。顧問先ごとのルールが貯まるまでは、人の判断件数がまだ多い前提で計画してください。
Q5. 担当者の仕事がなくなりませんか?
A. なくなるのは入力作業で、仕事そのものではありません。実際には、確認・顧問先対応・数字の説明といった、単価につながる仕事に時間を移すことになります。件数を増やしても人を増やさずに済む、という形で効いてくるのが現実的な姿です。
まとめ:削るのは「入力」ではなく「入力の前後」
最後に要点を整理します。
- 記帳代行の時間は、入力そのものより回収・整理・突合・確認・保存に消えている
- AIに任せるのは読み取り・整理・科目の候補出し・突合まで。仕訳の確定は人、税務判断は税理士
- 1社あたりの時間を減らす打ち手は4つ:入口の統一/読み取りとリネームの自動化/判断基準のルール化/例外だけ判断する形への移行
- 自社実測では、月60〜90分の作業が月10〜20分に。ただし手書き証憑が多い場合や初月は効果が小さい
- 注意点は5つ:自動登録にしない・守秘義務とAI設定・電子帳簿保存法・二重計上の防止・削れた時間を値下げに使わない
記帳代行の効率化は、道具を入れれば終わる話ではありません。事務所の判断基準を書き出して仕組みに載せることが本体で、AIはそれを動かすエンジンです。まずは1社、1か月から試してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務上の助言ではありません。勘定科目・税区分・税務処理の個別の判断については、顧問税理士にご相談ください。
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